足長クジラの落書き帳

drawings by long-legged whale

私の使った「人体ドローイング技法書」

 絵の練習を始めた2018年春から現在までに、私が取り組んできた技法書・解説書について、あらためて振り返ってみようと思います。各タイトルの上にある年月日は、実際に技法書に取り組んだ期間です。

 

2018/04/07 - 2018/07/02

A・ルーミス『やさしい人物画』

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 絵の練習を始めることに決めた当時は、何から始めれば良いのか分からない状態で、インターネットの情報にさんざん振り回された挙句、例によって「定番らしいから取り敢えず」という曖昧な理由で、この『やさしい人物画』に取り組むことにしました。

 そして、これまた例によって「定番らしいから取り敢えず」解説を読んで作例を模写することに...。この時やっていた模写は「作例を平面上の点と線の集まりと捉えて、それらの位置関係を引き写すこと」、つまり実質的にトレースと変わらない作業でした。

 

 2Dから2Dへのコピー作業なので、模写をするほど精度は上がりましたが、肝心の人体の描き方については、ボンヤリとしてよく分からないまま。ルーミス本人に目の前で一から作例を描いてもらえれば、このモヤモヤの大部分は解決するのに…。

 このモヤモヤの原因については「『やさしい人物画』は本当に必要なのか?」という記事に書きましたが、当時はまだ気付くはずもなし。ただ、この時「よく分からないまま模写を繰り返す」ことをしなかった自分の判断は、結果的に正しかったと思います。

 

 なんにせよ、「ルーミス本」に取り組んでも人体の描き方は分かりませんでしたが、テキトーに技法書を選んではいけないことは分かりました。技法書を選ぶ時は、「自分が何を知りたいのか明確にすること」と「その知りたいことが載っているか確認すること」の2つが重要!

 私が知りたいのは人体の描き方、その具体的な作画手順であり作業工程です。しかし、「ルーミス本」には(少なくとも私が分かるような形では)載っていない。ならば、その作画手順や作業工程が載っている技法書を探すしかない。

 

 ということで、次に取り組む技法書として選んだのが『マイケル・ハンプトンの人体の描き方』 でした。

 

2018/07/05 - 2018/11/27

M・ハンプトン『マイケル・ハンプトンの人体の描き方』 

f:id:ashinagakujira_h:20201019192043j:plainf:id:ashinagakujira_h:20201019192028j:plain 人体の描き方を解説していると謳う技法書は山ほどあるので、「ハンプトン本」を選ぶにあたっては1つ条件を付けました。それは、いきなり「まずアタリを取ります」などと言って人体模型を持ち出さないこと。私が知りたいのは、もっと前の段階からの作画手順です。

 ちなみに、この〝アタリ〟という言葉は曖昧さの塊のような単語なので、それが「何についてのアタリなのか」を明確にする必要があります。なんとなくで済ませてしまうと、大事なことを誤解したままになる可能性があるので、ご注意下さい。

 

 もちろん、作画の途中過程が詳しい解説付きで例示されていることは、購入する前に確認済み。ただ実際は、「はじめに」を読んだ時点で良書の予感はしていました。これは「人体の描き方をいかに教えるか?」を真剣に考えて実践してきた人の書いた本だと...。

 

〈本書では、ラインの使い方、フォーム(立体形状)を作りあげる方法、簡略化した身体構造のデザインに重点を置いている。これらは、奥行きのある空間に存在する人体をそれらしく描き出すための基本だ。輪郭、陰影、表情も重要な要素ではあるが、本書で説明する工程では中核的な要素としては扱わない。

 長年にわたってこのテーマを考える過程で、私はさまざまな技術的要素を組み合わせ、生徒たちが一貫して優れた結果を出せるよう努めてきた。しかし、どうぞ堅苦しく考えないでほしい。本書で説明する手法は、自由度が高く、融通の利く思考過程であり、作業工程だ。どこかの時点で自分なりの方法に変えていくことには、何の問題もない。工程の中には、同意できない側面や、重要には思えない要素もあるだろう。情報を自分のものにした後は、本書で説明した手法に自分なりのアイデアを取り入れて変えてはどうだろう。章を再構成したり、不要な章を除外したり、独自の考えを加えていくのだ。〉(はじめに)

 

 取り組んでみると、まさに「思考過程」と「作業工程」が解説されていると実感しました。そして、解説を読んで作例を模写するという使い方は変わりませんが、途中から、本書の「ジェスチャー→フォーム→アナトミー」という思考過程・作業工程に沿った模写に変えました。

 人体を描く作業工程の全体像、各工程の目的・全体における位置・前後のつながりが分かってくると、なんとなくではなく具体的な目的意識を持って、模写などの練習ができるようになります。単純な立体図形を描く練習にもちゃんとした目的があるんですよね。

 

 また本書で、人体を描く時の思考過程・作画工程だけでなく、アナトミーの基礎知識と人体を立体構造物として組み立てる方法を知ることができたことは、後でアナトミーの勉強をする時に下地として役立ちました。ただ、何も問題がなかったわけではありません。

 

〈本書では一貫してすべての目的の出発点となるフレームワークとして、「ジェスチャードローイング」を位置づけている。「ジェスチャー」は、彫刻の骨組み、または3Dアニメーションや3Dモデルのリグと同じものだとも言える。〉

 

 この「ジェスチャージェスチャードローング」の理解に時間がかかりました。言葉の解釈は良いとしても、無数に掲載されているジェスチャードローイングの作例が〈彫刻の骨組み〉と言うには完成され過ぎているように見えたからです。

 本書を読み進めながら、クロッキーなどで練習を重ねることで、これも徐々に解決するのですが…。 いずれにせよ、本書を一通りやり終えた時点では、「ジェスチャージェスチャードローイング」についてのモヤモヤは残ったままでした。

 

 ということで、次は「ジェスチャージェスチャードローイング)」の具体的な手順と解説が載っている本を探すことになります。そして、選んだのが『グレン・ビルプのドローイングマニュアル』でした。

 

2018/11/28 - 2019/04/20

G・ビルプ『グレン・ビルプのドローイングマニュアル』 

f:id:ashinagakujira_h:20201019192248j:plainf:id:ashinagakujira_h:20201019192232j:plain 例によって購入前に内容を確認すると、全12レッスンの初っ端、1レッスンまるごと全部「ジェスチャー」の解説。そこには、ジェスチャードローイングの基本手順が作画工程を示しながら4ステップで解説されていました。コレだ!と思いました。

 

〈ドローイングにおいて最も重要な要素は、ジェスチャーただ1つです〉

〈描き方だけではなく、観察の方法も学んでいるのです〉

〈写し取るのではなく、モデルを分析するのです〉

〈アクションに集中すると、見る人にもアクションが伝わるようになります〉

 

 本書では、最初に「ようこそ!」と題された文章が掲載されています。これは著者が書いたものではありませんが、「ハンプトン本」と同様、本編を読むまでもなく、ここを読んだだけで良書の予感がしていました。

 

こんなことを思ったことはありませんか。

・想像から描くのは難しい

・描いた絵に、生気が感じられない

・アーティストとして生計をたてたい

・ドローイングはなぜこんなに難しく、思うようにいかないのか

 本書を学ぶ皆さんは、思い悩み、苦労する期間を数年は短縮できます。現在の自分のドローイングが気に入らない、あるいは非常に労力を必要とするのであれば、おそらく目的にそぐわない方法で学んだのでしょう。生き生きとした生命感にあふれ、紙の上から飛び出してきそうなほどのキャラクターを描くには、それに適した方法を学ぶ必要があります。

 紙は2次元の画材です。このため、たいがいは2次元で描く方法を教わります。「2次元の紙面に3次元のフォームを描くのだ」という考えは浮かばないものですが、実際には、それこそがまさしく、現実を現実的に描くために必要なことです。紙の上で彫刻するようなものです。〉

 

 ちなみに、先に取り組んだ「ハンプトン本」はこの本を参考文献の1冊にあげていて、本書をさらにキッチリ理詰めで解説しようとしたのが「ハンプトン本」だと言えるかもしれません。そういう意味では、取り組む順番を間違えたかと、少し後悔しましたね。

 また、本書には「 Lesson9:2Dと3Dでの観察」という章があって、ここで「ようこそ」でも書かれている2つのアプローチについてはっきり理解できました。これについては「『やさしい人物画』は本当に必要なのか?」で書いた通りです。

 

 実際に人体などを描くとき、脳内では複数の作業が同時かつ並列的に進行します。そして、これを他人に教える場合は、その複雑に絡み合った作業をいちど細かく分解し、優先度にしたがって直列に並べ直し、分かりやすく言語化する必要があります。

 人体の描き方を説く技法書はすべて、同じことを解説しようとしているのですが、分かりやすさには大きな違いがあります。何故か?それは、この複雑に絡み合った思考過程をどこまで分析・細分化・再構成・言語化できているか、という点に大きな差があるからだと思います。

 

 さて、この後はアナトミーの勉強なども含めて、M・マテジのフォースシリーズなどに取り組むことになるのですが、人体ドローイングの基本手順についての理解は、この「ハンプトン本」と「ビルプ本」の2冊でほぼ完了していたと思うので、ここでいったん筆を置くことにします。ではでは...。